試合前になると急に体が重くなる、練習では普通にできるプレーがうまくいかない。少年少女サッカーの現場では、こうした「緊張」の悩みを抱える小学生・中学生がたくさんいます。
まず知っておきたいのは、緊張は「消せるもの」ではないということです。国立スポーツ科学センター(JISS)や日本スポーツ協会(JSPO)のメンタルトレーニング資料でも、緊張は心の自然な反応であり、なくすことを目標にするより「うまく付き合う方法」を身につけることが大切だとされています。
この記事では、ジュニア・ジュニアユース年代(小学1年生〜中学3年生)を対象に、緊張の仕組みから具体的な対処法、保護者の声かけのポイントまでを整理します。
サッカーの試合で緊張する理由を知る
なぜ練習では動けるのに試合になると体が固まってしまうのか。緊張のメカニズムを理解しておくと、対処法を選びやすくなります。
緊張は「なくすもの」ではなく「使うもの」
緊張は心の自動反応であり、意識的にオフにすることはできません。「リラックスしなければ」と強く意識すると、プレー以外のことに思考が向いてしまい、かえってパフォーマンスが落ちることがあります。
スポーツメンタルの分野では、この状態を「アザーフォーカス」と呼びます。緊張への対処と目の前のプレーという2つのことを同時に考えようとした結果、どちらにも集中できなくなる現象です。
ジュビロ磐田の若手選手やジュニア強豪クラブのメンタルサポートを手がけるメンタルトレーナーの清水利生氏も、「緊張を感じながらも良いプレーができることがある。緊張=悪ではない」と述べています。まず「緊張していても大丈夫」という前提を持つことが出発点です。
パフォーマンスと緊張レベルの関係
JSPOのメンタルトレーニング技法資料では、緊張・興奮が高すぎても低すぎてもパフォーマンスは下がると整理されています。力みや焦り、注意散漫につながるのは「高すぎる」緊張であり、逆にぼんやりした状態(低すぎる緊張)もプレーの質を下げます。
自分にとってちょうどよい緊張レベルを把握し、そこに近づけていくことが重要です。このバランスは選手によって異なるため、「いつもとどう違うか」を自分で知ることが第一歩です。
小学生年代では「すごく緊張している」「全然緊張していない」の2択で言葉にしがちですが、「今日は7割くらい緊張している」と数値で表現する練習をさせると、自分の状態を客観視しやすくなります。
緊張しやすい場面と原因を整理する
試合で緊張が高まりやすい場面には共通したパターンがあります。「大事な大会」「保護者や友人が見ている」「ライバルと当たる」などの状況では、無意識に評価を意識して心拍数が上がります。
この緊張の主な原因は「失敗したらどうなるか」という結果への不安と、「見られている」という評価への意識です。結果ではなく「目の前のプレーをどうするか」に意識を切り替えることが、緊張を適切なレベルに保つ鍵になります。
小学生・中学生年代では、コーチや保護者からの「失敗するな」「ミスするな」という言葉が緊張を強める原因になることもあります。声かけの内容についても後の章で整理します。
緊張が低すぎる → ぼんやり・集中できないにつながる
ちょうどよい緊張 → 自分のベストパフォーマンスが出やすい状態
目標は「緊張をなくす」ではなく「ちょうどよい状態に整える」
- 緊張は意思でなくすことができない心の反応
- 緊張しながら良いプレーをすることは十分に可能
- 「緊張=失敗」という思い込みを外すことが出発点
- 自分の緊張レベルを数値で把握する練習が効果的
試合前にできる緊張対処法
緊張を適切に整えるためのアプローチはいくつかあります。ここでは小学生・中学生が実際に取り組みやすい方法を中心に整理します。
呼吸法でコンディションを整える
呼吸法は、緊張時の心拍数を落ち着かせる効果があります。JSPOのメンタルトレーニング技法では、鼻から息を吸ってお腹をふくらませ、口からゆっくり吐く腹式呼吸が基本として紹介されています。吐くときは吸う時間の倍をかけてゆっくり行うことがポイントです。
小学生には「お腹を風船のように膨らませるイメージで吸って、ゆっくり吐く」という説明が伝わりやすいです。試合直前に5〜10回繰り返すだけでも、気持ちが落ち着きやすくなります。
この呼吸法は、普段の練習や家での練習から習慣にしておくことで、試合当日に「いつものやり方」として使えるようになります。日常的に練習しておかないと、緊張した場面では「どうやるんだっけ」と焦ってしまうことがあるため、日頃から取り組んでおくとよいでしょう。
ルーティンで試合前の心を安定させる
毎回同じ動作・準備の流れを決めておく「ルーティン」は、脳に「いつもと同じ状況」と感じさせ、緊張を和らげる効果があります。ウォームアップの順番、試合前に聴く音楽、スパイクを履くタイミングなど、子ども自身が「これをやると落ち着く」と感じるものを組み合わせて作ります。
プロサッカー選手がキック前に特定の動作を行うのも同じ原理で、習慣化されたルーティンが「いつも通りの自分」を引き出します。指導者が毎試合前に同じ流れで準備を進めることも、チーム全体の安心感につながります。
ルーティンに正解はなく、「この子に合うもの」を一緒に探していくプロセスが大切です。親が決めすぎず、子ども自身が「やりたい」と思える要素を入れるのがポイントです。
イメージトレーニングで成功体験を積む
試合前に「うまくいっている自分の姿」を頭の中で鮮明に描くイメージトレーニングも、緊張を整える方法のひとつです。JSPOの資料では、視覚だけでなく、音や感触なども含めてリアルにイメージすることが効果的とされています。
小学生・中学生年代では、「シュートを決める瞬間」「ドリブルで前に出られた感覚」など、具体的で短い場面をイメージするところから始めるのがおすすめです。最初は1〜2分程度で十分です。
慣れてきたら、試合の流れ全体をリハーサルする「メンタルリハーサル」に発展させることもできます。「こういう場面ではこう動く」という判断をイメージの中で練習しておくことで、実際の試合での対応が落ち着きやすくなります。
①鼻からゆっくり息を吸い、お腹をふくらませる(約5秒)
②口からゆっくり吐く(約10秒)
③これを5〜10回繰り返す
毎回同じ手順で行うことで、ルーティンとしても機能します
- 呼吸法は日頃の練習から習慣にしておく
- ルーティンは子ども自身が「やりたい」と感じるものを選ぶ
- イメージトレーニングは短い場面から始めて徐々に広げる
- これらを組み合わせて、自分なりのパターンを作る
試合中の緊張に対応する方法
試合前の準備だけでなく、試合中に緊張が高まった場面でも使えるアプローチがあります。プレーを続けながら心を整えるための方法を整理します。
キューワードで注意を切り替える

JSPOのメンタルトレーニング技法では、「注意の切り替え」の手段としてキューワードが紹介されています。キューワードとは、集中したい動作や心の状態を引き出すための短い言葉のことです。
たとえば「次」「ここ」「ボールを見る」「一歩前へ」など、短くて行動につながる言葉が有効です。ミスをした後や緊張が高まった場面でこの言葉を頭の中で唱えることで、注意が「失敗への後悔」から「今のプレー」に切り替わります。
このキューワードは、練習中から使い慣れておく必要があります。試合になって初めて使おうとしても、慌てた状態では思い出しにくいため、普段のトレーニングの中で「この言葉を言ったら次のプレーに気持ちを切り替える」という練習を積み重ねておくとよいでしょう。
フォーカルポイントで集中を取り戻す
JSPOの資料では「フォーカルポイント」という方法も紹介されています。「○○を見たら集中」と、視線を向ける対象をあらかじめ決めておくことで、注意が散漫になった場面でもすぐに集中状態に戻れるようにする技法です。
サッカーであれば「ボール」「ゴール」「コーチの立ち位置」など、具体的な対象を設定しておきます。緊張で周囲の声や観客の視線が気になった場面でも、「あれを見る」という行動にすぐに移れます。
小学生年代では「ボールだけを見る」というシンプルな設定が実践しやすいです。試合前のミーティングで「緊張したらどこを見る?」という確認を指導者が行うことで、子ども自身が自分のフォーカルポイントを意識しやすくなります。
筋弛緩法で体のこわばりをほぐす
緊張すると肩に力が入りやすくなり、それが動きのぎこちなさにつながります。JSPOのメンタルトレーニング技法で紹介されている筋弛緩法(漸進的筋弛緩法)は、力を入れた後に一気に抜くことで「リラックスの感覚」を体に覚えさせる方法です。
肩を首に近づけるように8割程度の力で数秒間ぐっと上げ、次に吐く息とともにストンと落とします。この動作を繰り返すことで肩の力が抜けた感覚を体感できます。試合のハーフタイムや交代直前にも使いやすい方法です。
「グーを握って、パッと開く」という手のひらの動作も同じ効果があります。ベンチにいる間など、目立たずにできる簡単な動作として覚えておくと、試合中でも活用しやすいです。
| タイミング | 方法 | ポイント |
|---|---|---|
| 試合前日 | イメージトレーニング | うまくいった場面を1〜2分イメージする |
| 試合当日の準備中 | 呼吸法・ルーティン | 毎回同じ手順で行う |
| 試合直前のウォームアップ | サイキングアップ(掛け声・ハイタッチ) | チームで気持ちを盛り上げる |
| 試合中・ミス直後 | キューワード・フォーカルポイント | 短い言葉で注意を切り替える |
| ハーフタイム・交代時 | 腹式呼吸・筋弛緩法 | 体のこわばりを意識的にほぐす |
- キューワードは試合よりも先に練習で使い慣れておく
- フォーカルポイントは「ボールを見る」などシンプルに設定する
- 筋弛緩法はベンチでもできる気軽な方法
- タイミングに合わせて複数の方法を使い分けるとよい
保護者が知っておきたい声かけと関わり方
子どもの緊張には、保護者の言葉や態度が大きく影響します。良かれと思った言葉がプレッシャーになることもあるため、基本的な考え方を整理しておくとよいでしょう。
試合前の声かけで避けるべき言葉
「失敗するな」「絶対点を取れ」「いつもより頑張れ」といった言葉は、子どもに「結果が求められている」と感じさせ、緊張を高める原因になります。「緊張してるの?」と何度も確認する言葉も、緊張を意識させてしまうため控えめにするとよいでしょう。
メンタルトレーナーの清水利生氏は、「指導者・保護者は緊張と結果をセットにしないことが大切」と述べています。緊張を悪いものとして扱わず、「緊張していても大丈夫」と伝えることが、子どもの心を安定させます。
試合後の言葉も重要です。「なんでミスしたの」「なんで緊張したの」という問いかけは避け、「どんな試合だった?」「次はどうしたい?」と子ども自身が振り返れる問いかけの方が、長期的にメンタルが育ちやすくなります。
緊張を認める言葉かけの実践
「緊張してる」と子どもが言ってきたときは、「そっか、緊張してるんだね」と受け入れる言葉が最初の一言として有効です。「大丈夫、緊張しないよ」という否定の言葉は、子どもの感情を無視することになります。
「緊張してるのは、それだけ真剣にやろうとしてる証拠だよ」という言葉も、緊張をポジティブに捉え直す手助けになります。感情を否定せず、プレーに向き合おうとしていることを認めることが大切です。
具体的な行動提案も効果的です。「じゃあ一緒に深呼吸しよう」「いつもの呼吸法やってみよう」と、具体的な行動に誘導することで、子どもは「何かできることがある」と感じて落ち着きやすくなります。
日頃の関わりでメンタルを育てる
試合当日だけでなく、日頃の関わりが子どものメンタルの強さを左右します。練習や練習試合での小さな成功を積み重ね、「自分はできる」という自己効力感を育てることが、本番の緊張への耐性につながります。
子どもが自分の感情や状態を言葉にできる環境を作ることも大切です。「今日の練習はどうだった?」「体の調子はどう?」「緊張した?それはどんな感じ?」と日常的に問いかけることで、子どもは自分の状態を観察する習慣が身につきます。
保護者が「勝ち負けより、自分のプレーをすることが大事」という姿勢を日頃から示すことで、子どもは結果への不安より「今日の自分がどうプレーするか」に意識を向けやすくなります。長期的に見ると、この関わり方がメンタルの成長に最も効果的です。
試合前:「緊張してる?そっか。一緒に深呼吸しよう」
試合中:静かに見守り、ミスに反応しない
試合後:「どんな試合だった?次はどうしたい?」
日頃:小さな成功を見つけて具体的に言葉にする
- 「失敗するな」「緊張してるの?」という言葉は緊張を強めやすい
- 「緊張してる証拠は真剣にやろうとしてるから」と言い換える
- 試合後の言葉は振り返りを促す問いかけにする
- 日頃から自分の状態を言語化する習慣をつける
継続的にメンタルを鍛える練習の方法
緊張への対応力は、試合当日だけ意識しても身につきません。日頃の練習に少しの工夫を加えることで、少しずつ自分をコントロールする力が育っていきます。
練習でプレッシャーをかける場面を作る
緊張に強くなるためには、「プレッシャーがある状況での練習」を積み重ねることが有効です。「この1本を決めたらチームの勝ち」というシチュエーション設定や、チームメートの前で技術を披露する機会など、小さな緊張を体験できる場を意図的に作ります。
練習試合を積極的に活用することも効果的です。公式戦の緊張に慣れるために、練習試合でも「いつもと同じルーティンで準備する」「試合前に呼吸法を行う」という習慣をつけておくと、本番でも自然に同じ流れができるようになります。
小学生低学年では、勝ち負けに意識が向きすぎないよう「プレーを楽しむ」ことを大切にしながら、少しずつプレッシャーに慣れていく積み上げが重要です。
振り返りの習慣で自己理解を深める
JSPOの資料では、「パフォーマンス分析」として試合後に自分の心理状態を振り返ることが紹介されています。「試合前はどんな状態だったか」「緊張が高かった場面はどこか」「うまくいったときは何が違ったか」を言語化していくことで、自分の緊張パターンが見えてきます。
小学生・中学生が取り組みやすい振り返りの形式としては、練習ノートや試合ノートへの記録があります。5段階で自分の緊張レベルを書くだけでも、積み重ねると「自分は大事な試合ほど6〜7になりやすい」というパターンに気づけます。
振り返りは「できなかったこと」ではなく「できたこと」も必ず書くようにします。うまくいった場面を記録することで、イメージトレーニングに使える材料が増え、自信にもつながります。
専門家への相談が必要な場合もある
緊張が日常生活にも影響している、ミスへの恐怖で練習を休みたがるようになった、などの様子が続く場合は、メンタルの専門家や医療機関への相談を考えてもよい場合があります。スポーツの緊張や不安が強い場合のサポートは、スポーツメンタルトレーナーのほか、小児科・精神科・カウンセラーなどが対応できます。
JSPOでは「心理サポート」を提供しており、スポーツに関連したメンタルの相談窓口があります。保護者だけで抱え込まず、適切な相談先を探すことが大切です(詳細はJSPO公式サイトの相談窓口ページをご確認ください)。
「緊張しすぎてプレーができない」という状態が長期間続く場合は、個人差も大きいため、所属チームのコーチや学校のスクールカウンセラーへ相談することを検討してみてください。
- 練習中にも小さなプレッシャー場面を意図的に作る
- 練習試合でも試合前のルーティンを実践する
- 振り返りはできたこととできなかったことの両方を記録する
- 緊張が強く日常生活に影響するようならJSPOや医療機関に相談する
まとめ
サッカーの試合で緊張するのは自然なことであり、なくすことを目標にするより「うまく付き合う方法」を身につけることが、小学生・中学生年代のメンタル育成の基本です。
まず試してほしいのは腹式呼吸の習慣化です。試合前に「お腹で息をする」練習を日常的に続けることで、緊張した場面でも呼吸が落ち着き、次の行動に移りやすくなります。
子どもの緊張は、保護者の声かけひとつで変わることがあります。「緊張してるのは真剣にやろうとしてる証拠」と伝え、一緒に整える時間を作ることが、長く続けられる土台になります。

